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高松高等裁判所 平成2年(ネ)244号 判決 1992年11月30日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人が、昭和六〇年八月一四日開催の通常総会においてした控訴人の漁業権行使を禁止する旨の決議、及び、昭和六一年一月一九日開催の臨時総会においてした控訴人を除名する旨の決議は、いずれも無効であることを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の主張及び証拠の関係は、当審における証拠につき当審記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用するほか、原判決事実摘示(ただし、原判決書四丁裏八行目「であり」を「であるから」に改める。)と同一であるから、これを引用する。

理由

一  被控訴人は、水産業協同組合法に基づいて設立された漁業協同組合であり、控訴人は、昭和六一年一月一九日当時その組合員であったこと、被控訴人は、昭和五八年七月二三日、高知県知事から第二種共同漁業権(小型定置)共第二五三二号ないし共第二五三六号の免許を受けたこと、昭和六〇年八月一四日に開催された組合の通常総会において、控訴人が前記共第二五三四号の漁業権(以下「本件漁業権」という。)を行使することを禁止する旨の、続いて、昭和六一年一月一九日に開催された臨時総会において、控訴人を除名する旨の各決議がなされたことは、いずれも当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第一号証によれば、右昭和六〇年八月一四日の総会では、控訴人による共第二五三四号漁業権行使の停止のほか、控訴人に対し同年九月三〇日までに漁具を引き上げさせる旨の決議をしたことが認められる。

二  そこで、まず、昭和六〇年八月一四日の総会決議が有効か否かについて判断する。

1  被控訴人組合では、県知事から免許を受けた共同漁業権を組合員に具体的に行使させるについては、共同漁業権行使規則(以下「規則」という。)の定めに従い、漁業権管理委員会(以下「委員会」という。)の許可決定を経なければならない(加えて組合総会の議決を要するか否かはしばらく措く。)ことは当事者間に争いがないところ、被控訴人は、控訴人は委員会の許可決定を得ずに本件漁業権を行使したと主張し、控訴人は、右の許可を得た旨主張するのでこの点を検討する。

原本の存在とその成立に争いのない甲第一五号証、成立に争いのない甲第五、第六号証、第九号証、乙第一四、第一五号証、原審における被控訴人代表者本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第六号証、乙第一七号証の一ないし一三、原審証人池田進の証言により真正に成立したものと認められる乙第七号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第四一号証、原審証人加古川千代松、同池田進、同堀川貞明の各証言、原審(第一、二回)及び当審証人川口晴道の証言、当審証人川口福芳の証言、原審における被控訴人代表者本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)、及び、弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  被控訴人は、従前、県知事から免許を受けていた前記五個の共同漁業権が昭和五八年八月三一日に期限切れになるため、昭和五七年八月一四日開催の通常総会の承認決議に基づき、同年一一月ころからその免許更新手続を進めていた。当時、前記五個の漁業権のうち、共第二五三三号の漁業権は花岡漁重が、共第二五三五号の漁業権は花岡俊彦が行使し、共第二五三二号、共第二五三六号の漁業権も他の組合員がそれぞれ行使して現に操業していたが、本件漁業権については、一時、池田進が行使し操業したこともあったものの、昭和五三年ころにはその行使を止め、以後は右漁業権を行使して操業する者はなかった。

ところで、右通常総会においては、小型定置の一斉沖出しが審議され、本件漁業権に係る漁場(以下「本件漁場」という。)以外の漁場については、共同漁業権で許可されている一七尋いっぱいまで沖出しすることが承認されたが、本件漁場については、従前、その後面に位置する共第二五三三号の漁業権行使者花岡漁重との間で紛争が生じたことがあったので、あらかじめこれを防止するため、九尋以上の沖出しをしてはならない旨の決議がなされた。

(二)  控訴人は、昭和五七年一二月一九日、組合長川口晴道に対し、昭和五八年九月一日からの本件漁業権の行使の申請をした。本件漁業権を除く前記四個の漁業権の行使者については、理事会や昭和五七年度の通常総会において既に従前の行使者の権利を更新することが承認されていたが、本件漁業権の行使者については、未定のままであった。そこで、控訴人の申請を受けた組合長川口は、これをまず理事会に諮問したところ、理事会では規則によるべきであるとの意見が多数を占めたため、県知事から前記五個の漁業権の免許が下りた後、その審議を委員会に付託した。

(三)  付託を受けた委員会は、前後四回の会議を開いて審議した結果、当初、委員の池内明治は、本件漁業権の後面に位置する共第二五三三号の花岡漁重の従業員であった関係もあって、控訴人に本件漁業権の行使を認めることに難色を示していたが、他の委員は、免許を受けている本件漁業権を行使しないままにしておくことはないとの意見で、結局、池内委員も強いて反対せず、控訴人の申請を容れて、本件漁業権の行使者を控訴人とすることに決定し、同時に、その他の四個の漁業権の行使者についても、従前の理事会等の決定を追認する旨の決定をした。そして、委員長堀川貞明は昭和五八年九月一七日付けの文書で組合長にその旨報告した。右委員会の決定を受けて、組合長川口は組合を代表して、そのころ、控訴人との間で本件漁業権行使契約を締結した。

(四)  ところが、委員会が控訴人に対し本件漁業権の行使の許可を与えたこと、及び、昭和五八年九月二七日開催の理事会で本件漁場について一七尋の沖出しが提案されたことに反対する理事の池田進や同花岡漁重らは、同年一〇月一〇日、組合員二九五名中二二二名の署名を集めて、これらの不当を糾弾するとし、組合長川口に対し臨時総会の開催を請求したが、同組合長は提出された書類が不備であるとしてその開催を拒否したことから、控訴人や組合長川口らと右池田、花岡らとの対立は深刻になった。

(五)  このような対立の最中、控訴人は、昭和五九年四月ころから、本件漁場の水深一六尋の沖に網を入れて操業を開始した。そのため、控訴人と花岡漁重ら反対者との関係はますます険悪になった。そこで、昭和五九年度の通常総会において、一部の理事らから、本件漁業権の操業区域を調整したうえ控訴人の漁業権行使を認める方向で検討してはどうかとの提案がなされ、同年一一月ころ、控訴人と右花岡との間で話し合いが行われた。しかし花岡が本件漁場の沖出しにつき、一五尋まで譲歩したのに対し、控訴人は一七尋を主張して譲らなかったため話し合いは決裂した。しかるに、控訴人はその後も一六尋での操業を続けた。

以上の事実が認められる。

原審証人池内明治の証言中には、委員会において、控訴人を本件漁業権の行使者と決定したことはない旨、同北代順一の証言及び原審における被控訴人代表者本人尋問の結果中には、後日の調査で前同様の結果が判明した旨の各供述部分があり、更に、乙第四号証の一、二には右と同旨の記載があるが、前掲各証拠、とりわけ前掲証人堀川貞明及び同川口晴道の各証言に照らし、にわかに措信することができず、他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実によると、控訴人は、本件漁業権の行使について、規則七条一項所定の委員会の許可決定を受けたものと認めることができる。

控訴人は本件漁業権の行使について委員会の許可決定を得ていないとの被控訴人の主張は採用の限りでない。

2  次に、弁論の全趣旨によれば、控訴人が本件漁業権の行使につきこれを承認する総会の議決を経ていないことが認められるところ、控訴人は、右総会の議決は不必要である旨主張するので検討するに、当裁判所も、被控訴人組合においては、組合員が漁業権を行使するためには、組合総会の議決を要するものであると判断する。その理由は、原判決書一一丁表六行目冒頭から一三丁表末行終わりまでに説示するところ(ただし、一一丁表六行目「池内明治」の下に「(前記措信しない部分を除く。)」を、同所八行目「行使者の決定は、」の下に「当該漁業権を行使したいと希望するものが、その旨」を加え、同丁裏三行目全部を「共同漁業権行使規則の一部を変更するとともに、従来、機能していなかった委員会を規則に従って活動させることにし、管理委員を選出したが、漁業権の行使にかかわる事項については、組合員間の利害関係が大きいので、五名の委員の決定に委ねることは適当でないとの見地から、」に改め、一二丁表七行目「共同漁業権」から同所九行目「採用できず、」までを削り、同丁裏七行目「有しているのであるから」から同所九行目「過ぎない。)」までを「有しており、」に、同所一〇行目から末行の「決議することも可能であると考えられる」を「の決議はもとより有効と認められる。」に、同所一三丁表初行「「総会は」から一三丁表五行目「から」までを「総会は組合員の総意により、組合の意思を決定する最高の機関であり、法令、定款に違反しない限り、組合の組織運営等に関する一切の事項について議決することができるのであるから」に改める。)と同一であるから、これを引用する。

以上の認定事実によれば、控訴人の本件漁業権の行使は、委員会の許可決定を得ただけで、未だ総会の承認決議を経ていない段階において行われたものであるから、被控訴人が、昭和六〇年八月一四日開催の通常総会において、控訴人に対し本件漁業権の行使を禁止し、漁具の撤去を求める決議をしたことには違法はなく、右決議は有効に成立したものと認めることができる。

なお、控訴人は、規則一〇条一項(違反者に対する措置)には、理事が違反操業を停止させる権限を有する旨規定があるので、総会にはその権限はないと主張するが、組合員の違反操業を停止させるのは理事として当然の職責であり、これを規則に定めたからといって、最高機関である総会が権限行使に制約を受けたり、権限を喪失するものと解することはできない。

控訴人の主張は採用の限りでない。

三  そこで、昭和六一年一月一九日開催された臨時総会における控訴人除名の決議が有効か否かについて判断する。

1  右総会の成立、決議内容及び控訴人に対する勧告状況等の事実関係についての認定は、原判決書一六丁裏六行目「被告が、」から一八丁表六行目終わりまでに説示するところ(ただし、一七丁裏九行目「その後」から同所一〇行目「反論し、」までを削り、一八丁表五行目「提出したこと、」の下に「なお、原告は、昭和一八年から右総会による除名決議があるまで被告の理事の職にあったこと」を加える。)と同一であるから、これを引用する。

2  以上一、二及び三の1の認定事実によれば、控訴人は、被控訴人の理事でありながら総会の承認を得ることなく本件漁業権を行使する規則違反を行い、控訴人の本件漁業権を承認せず漁網等の撤去を求めた総会決議、及び、その後の数度に及ぶ被控訴人からの同旨の勧告にも従わないで違反操業を続けたもので、その行為は被控訴人の定款(甲第一号証)三五条一項の「役員は法令、定款、規約及び総会の決議を遵守し、組合のため忠実にその職務を遂行しなければならない」との定めに違反し、総会決議による除名事由を定めた同一五条一項四号の「組合の定款もしくは規約に違反し、その他組合の信用を著しく失わせるような行為をしたとき」に該当するもので、その違反は決して軽度なものではないというべきであるから、被控訴人が昭和六一年一月一九日の臨時総会においてした控訴人に対する除名処分は相当であり、その決議は有効に成立したものと認めざるを得ない。

右除名決議が無効であるとの控訴人の主張は理由ない。

四  以上によれば、控訴人の本訴請求はすべて理由がないから棄却されるべきものである。

よって、右と結論を同じくする原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九五条本文、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

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